平成29年度の先駆的空き家対策モデル事業成果が出揃ったので、見てみた(その2:空き家に関する相談事例の収集、体制の構築3団体)

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国交省が行っているモデル事業を見ていく企画の続きです。

先駆的空き家対策モデル事業に平成29年度の事業成果が出揃ったのでそれを1つずつ見ていきます。

先駆的空き家対策モデル事業

平成29年度のモデル事業は、4分類されていて、先回その1では空き家の発生防止を見ました。平成29年度の先駆的空き家対策モデル事業成果が出揃ったので、見てみた(その1:空き家の発生防止7団体)

今回は、空き家に関する相談事例の収集、体制の構築について見ていきたいと思います。3団体なので前回よりは短めになるはずです。

所沢市空き家ワンストップ相談事業を活用した空家等の流通を促進する事業(公益社団法人埼玉県宅地建物取引業協会)

所沢市は空き家条例などを先駆けて作ったはずですが、そういう意識が高い自治体が行う取り組みということで期待ができます。

概要を見る限りは、ワンストップ相談というアイデア自体は言うは易く行うは難しですが、それを行ったことで、マニュアルやチラシ等が成果物として上がっています。気になったのは取組内容で、低額物件の媒介コスト負担削減策の検討というものです。その1の空き家の発生防止でも似たものとしては、岐阜空き家・相続共生ネットの取り組みであった低廉不動産の流通化というものですね。

内容としては、ワンストップ相談窓口の事業実績としては、相談実績が6件で、解決が2件。相談窓口には高度な知識や専門ノウハウが求められるのでそういった人材育成。あとはワンストップ相談事業の構築や対応マニュアルの作成。これは全国の宅建協会が同様の窓口を作るための参考資料という位置づけですね。

低額物件の媒介コスト削減は、会員徴収費用を原資として調査費補助する仕組みだった

最後に気になる、低額物件の媒介コスト削減のアイデアです。スキームは以下のようになります。原資としては、会員の成約手数料で媒介報酬の10%とします。当然これは通常取引でなく、「ワンストップ相談事業」で発生した売買の媒介業務が対象となります。つまり新規で出来た案件となるわけです。

その報酬10%が支部(ここでは宅建支部のこと)にストックされ原資となります。

次に、取引価格が1000万円以下の低額物件であれば、調査費実費を負担するというものです。上限2万円とするとなっています。

これは、報告書にありますが、宅建業者的には、低額な空き家は美味しくないというところの課題を軽減する狙いです。空き家物件が遠方にあれば交通費もかかりますし、調査費用がかさみます。老朽化していればさらに念入りに調査する必要があり、また空き家であれば権利関係の調査も。こういった労力が多い割に成約率が低いので、見合わないということですね。

またこれらが機能するかはまだスキームが出来たというだけなので今後に注目です。

相談事業の低調さ

6件とは非常に低い数字であり、これについては色々と課題があったということですが、ワンストップ相談窓口自体は構築しても、マニュアルがあっても、集客という意味で相談が出来ていく流れがでなければなんとも悲しい話です。そういう意味では新たに作るというよりも、既存のリソースを使っていくというところなのかなと感じました。

具体的には市役所から紹介などでこのワンストップ相談窓口につなぐわけですが、市役所相談→ワンストップ窓口相談というのは手間な感じがするのと、そもそもの所沢市の相談窓口がどこまであったかの数がないのでなんともです。

気になったので調べてみると、

改 革 改 善 事 例 等 報 告 書では、所沢市では、全国に先駆けた空き家条例を行ったというところで、空き家相談自体が2010年までに73件累計件数であったとあります。うち47件を改善や解決をしたという簡単なレポートです。それはいいのですが、一方で市民が空き家について通報するかどうかもあるので全部ではないでしょう。そして条例開始当初の2010年度は月6件から最大10件の相談があったことから、年間100件程度の相談があると考えられます。ただこれは所有者の相談かどうかは分かりません。一般的にこれらは近隣の方がクレームというのが多いと考えられます。この資料では8年前の時点で約400軒を超える空き家があると書かれています。

意外にも所沢市は空き家実態調査をやっていそうですが、空き家特措法が2015年だったと思うのでそれ以前に高い意識で把握していたという意味で、実態調査はやられてないようです。

実際には空き家が仮に400あるとして、年々増えていくか、または適正管理というのもあればそこまで「相談」があるとは言えません。あと気になったのは、これは所沢市視点から見ると、あくまで協定です。

所沢市空き家利活用等ワンストップ相談事業をご利用くださいでは、所沢市と事業協定を結んだ4団体が書かれています。当然ですが紹介を市側がどのようにするかという意味では、あくまで周知なので、「チラシ」「HP」によってありますよというところでとどまります。4団体のうち1つが、今回の宅建所沢センターとなるわけですね。窓口やHP、チラシを見た限りでは、どこに相談するかと考えます。空き家管理なら空家・空地管理センターがいいかなとか、運営元によって見方をある程度変えそうです。

こういったところから、周知の問題はあれど、そもそも市役所からの流れでは一定の件数が集まらないのと、空き家所有者にとっては宅建センターは近いようで遠い存在(地元の不動産屋のほうが近い)のかもしれません。このあたりは、他の事業協定団体も同様かもしれません。そうなると、前情報がない段階で、無料だけで相談してみるかという「姿勢」が普通なのかなと感じました。

空き家相談員のスキルアップは疑問

専門家がスキルアップをしていくという意味で研修やそういった高い意識を持つのが悪いわけではありません。業界的に宅建事業者の不動産に対してとくに空き家問題に対して意識が低いとか、または知識がないので対応ができないということがあれば意味があります。ただ人材を育成したところで、今回の事業で見えたのは、ワンストップ相談事業の低調さです。

事業としては伸びていくかもしれないし、そもそもここでいう空き家は仲介売買の中では、全体の一つに過ぎないので過剰に空き家を意識しても投資効果が得られないのではないかと不安になりました。

つまり、いくら高い専門知識があっても依頼という相談がなければ話が始まらないので、ちょっと先走った感があるのかなと。同様に試験的に所沢市部が宅建全国への展開をするための行ったのであれば意義があるかもしれません。この見極めをどこまでやるかも大事になりそうです。

組織のやり方や方針、体制などもあるのでなんともいえませんが、ここでの課題はワンストップ相談というところよりも、まだスキームを作ったばかりの低廉不動産の仲介コスト負担という方を検討したほうが筋が良いのかなと。ただこのスキーム自体が、ワンストップ相談事業での成果ありきなので、共倒れという結果にもなりかねません。

となると、民間視点であれば、いかにセンターとか窓口をコストをかけずに作るか、かつどう相談件数を増やすか、または相談からどう案件に結びつけるかということになっていきます。

空き家流通化を目的とした市町村・NPO連携型地域プラットホームの構築(特定非営利活動法人空き家コンシェルジュ)

本NPOが空き家相談などを実施してきて年間約1,000件も受けてきたようです。5年ほど相談窓口開設からノウハウがたまっていく中で、今後も増加傾向にあるものを自団体ではさばけないであろうということから、自治体など連携したプラットフォームを作っていくのが狙いとあります。

プラットフォームのあり方や組織形態というところの検討がされているのが興味深いです。例えば3自治体をモデル地域としていて、生駒市では市→専門家団体→専門事業者という方が市の負担が少なく好ましいという意見だったということです。対比する方式としては、専門家団体や専門事業者を市が直接登録管理するパターンです。

結局は一団体、それは専門家団体だけではクリアできない課題が多く、といっても今すべての課題がクリアできるというわけではないでしょう。そういう中で、たまたま奈良県吉野町では志あるNPOがあったから良いものの、奈良県内の他の自治体でも展開できるか、またはその事務局をやれるかというとかなりつらそうです。結果的にそれは自治体の請負みたいな形になったNPOが生まれるだけだからですね。

そこで、既存団体との連携というところを生かして、結果的にそれぞれのプレイヤーが恩恵を受ける形こそが、自立できる運営プラットフォームとなるのかなと感じました。

これらの取り組みが他エリアで参考になるといいですね。

空き家率の高い地域における空き家に関する相談事業 (日本司法書士会連合会)

概要を見ると、相談会を実施し事例を作成。それらを自治体や空き家所有者へ使ってもらうという取り組みなります。相談会は6自治体で行われ23件の相談。事例としては16事例となっています。

相談会などは行うことは簡単ですが、信頼がなければ相談も発生しないため、これらは司法書士会連合会という半公共的な存在だからこそ出来るという印象もあります。

日本司法書士会連合会の全国空き家問題110番

平成27年と3年前の取り組みですが、同会が実施した全国空き家問題110番という取り組みがあります。これは面白い取り組みで司法書士が電話相談窓口を開いてそこで相談を受けるというものでした。これらで使った調査票なども活用されているようです。

多くの人は相談先が分からない

相談23件の中で、12件が相談歴がないという点が興味深いです。相談をしたいがどこにいっていいか分からないのでそこで止まってしまうわけですね。空き家に限らずありそうな話です。

もう1つさらっと書かれているのですが、「空き家」と言われると相談しづらいというのもあるようです。つまり「持ち家」であり、「空き家」とは無価値な物置きみたいなネガティブなワードかもしれませんし、「空き家相談会」があっても、地域コミュニティが根強くあれば「どこの家は家を貸したり、売ろうとか、壊したりしようとしている」という他人の目が気になるわけです。

推測に過ぎませんがこれらは、そこで生活を例えば50年くらいしてきたとか、ずっと住んできた人には根強いのでしょう。「家処分するよ、このままでは駄目だし」「そうだね」というライトな会話が成立するのでなく、噂をされたり、色々言われるのがやはり根強いわけです。家を守るのがあるべき姿であるなどです。これらの考えが悪いとは言いませんが、問題だから経済的不合理だからというロジックは非所有者であり、または所有者の地域に住んでないから言えることでもあります。

ここのあたりを問題だからというアプローチでなく、供養みたいなアプローチのほうがいいんじゃないかというところです。これについては空き家の葬式というアイデアがあったのでまた調べてみます。

相談会自体は低調な件数

報告書では、相談会自体の相談件数が低調であったと書かれていて、その理由は所有者自身がその地域にいないというのも一因ではないかと書かれています。空き家所有者は空き家と思われるところに住んでいなければ、近隣にいると思いがちですが、相続によって渡れば全く違う地域にいます。愛知県の空き家を北海道にいる人が管理できるかどうかですが、誰かに委託するか、そこにくる機会がなければまずできません。その場合、北海道で相談会をやる意味があるわけですが、こういった所有者が遠い場所にいるとこういったリアルなイベントは効果を発揮しないという結果になるというわけですね。

空き家相談会の相談自体を自治体など引き継いでいくところはあまりうまくいかないようで、相談のみで終わってしまってしまうということも結構痛い点ですね。司法書士が出来ることは、色々あってと説明しても相談だけで次の展開になりづらいという点もあるようです。こればかりは、所有者は行政的な枠組み、半公共的なイメージが強い司法書士という存在ところで、相談出来たらいいかなくらいでそこまで「次をやらないと」という意識がなかったかもしれません。

これは相続登記の必要性を感じないとか、所有者の意識が低調なのと相関している気がします。とはいえ、啓発や啓蒙とはそういう意識を受け入れてこういうことになりますよと説明していくことですから、歯がゆい感じはありそうですね。

士業等団体は自治体との協定連携が現実的か

おそらくですが、自治体の空き家窓口もそこまで機能してないというところから、専門家の連携として例えば司法書士会があるというのは他でもやっているはずです。

その上で、相談事例を蓄積していって例えば、AIなどで簡単な相談はその場で対応できる、または質問者への回答となりえるものでオッケーとします。実際は、相続の問題だと相談者が思っていてもそれは全く別の話だったというのが「相談」ではよくあることなので、そういう事例をうまく活用していくことで、コストをかけずに筋の良い対応をしていくことにつながるのではと感じました。

おわりに

今回は相談事例や体制構築ということで、攻めているというよりも守りに近い取り組みが多かった印象です。また3件と少ないのもありそうです。

所沢市宅建支部の取り組みは、ワンストップ相談窓口を作りそこから事例を作り、全国宅建へ展開するためのマニュアル作成などでした。そこに付帯的でもある不動産売買事業における空き家の仲介報酬を原資として、空き家調査費用を補助するという取り組みはユニークでした。これは面白いけれど、相談窓口が低調だったのをどう判断するかになりそうです。原資が相談窓口ありきだからですね。

次に、空き家のプラットフォーム構築を見ました。こちらは仕組みづくりという点で、組織や団体毎の調整や話し合いがメインとなっていますが、どういう形なら存続できるか、そしてどういうあり方がそれぞれにとって良いかというのは価値がありそうです。もちろん本取り組みでプラットフォームが出来て、完璧な何かが出来たわけではないですが、少なくともモデル地域である本NPOが関わる3自治体はそこそこうまくいくのではないかという期待が出来ます。

最後の司法書士連合会は、空き家率の高いエリアを絞って相談会をやってみて、そこで行政へのバトンタッチは課題が残ったり、空き家所有者はどこに相談していいか相談できるかさえ分からないという点が見えたというところです。また空き家相談、空き家という言葉を使いたくない、推測ですが近隣コミュニティの目が気になって相談ができないというのは一定数ありそうです(これは近隣に所有者がいる場合で、相続で遠い地にいたり、地縁が遠ければあまり気にならないはずです)。そういった点から、行政と協定を結ぶくらいが現実的ですが、一方でもっと専門機関が攻めて対応していくのも見てみたいという気がしました。

相談事例を集めるなどが大半の取り組みの狙いなので、どちらかといえば現場相談の支援的な意味合いが近いわけですが、各事業者の視点で取り組んでいるのは面白いですね。

次はその3を見ていこうと思います。

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名古屋の不動産市場を知る

日本ランドエンジニアリング株式会社では、数年に一度のペースで、名古屋中心部エリアの不動産状況を調べています。2017年度は変貌する名古屋5(2017年6月作成)を発行致しました。名古屋の不動産市場を見るデータとしてご活用頂ければ幸いです。

名古屋中心部エリアの調査レポートです。表紙、裏表紙込みで全体で12ページとなっています。配布ファイルはPDF(約2.5MB)で、データファイルはA3サイズですが、A4の縮小印刷でも可読可能です。

レポート内容は、

1.建物の主たる利用別用途図(P.2-3)

2.建築中および5年以内に新築・建て替えられた建物(P.4-5)

3.既存および建築中ホテル(P.6-7)

4.所有権の異動(売買および相続)(P.8-9)

5.投資法人が所有する建物(P.10)

6.名古屋市中心部の状況(P.11)

となっています。

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